通勤途中、歩道で自転車との接触事故に遭った。
片側2車線、全体で4車線ある大きな交差点の横断歩道を、青信号で渡り終えたところだった。直進して建物の角に差しかかった瞬間、左側から赤信号を無視して猛スピードで走ってきた自転車が、私と建物のすき間を通ろうとしたのか、突っ込んできたのだ。
それは、いかにも頑丈そうな子ども乗せ仕様の電動アシスト付き自転車だった。前後に子どもを乗せた、いわゆる“3人乗り”のお母さんが運転していた。
彼女は私の前に無理やり割り込むように進入し、私に接触。その際、歩道と建物のわずかな段差にタイヤを取られたのかバランスを崩しかけた。なんとか両足で踏ん張って転倒は免れたものの、こちらに一度も振り返ることなく、そのままものすごい勢いで走り去っていった。
私は直撃は免れたが、かなりの衝撃で鞄を落としてしまった。
母親+子ども2人を乗せた頑丈な電動自転車。おそらく自転車の重さとあわせて、自重は100kgを優に超えていただろう。それがスピードを出して向かってきたのだから、まともにぶつかっていたら、どうなっていたかわからない。無事でよかった…。
とはいえ、あの母親は赤信号を無視して、子どもを2人も乗せていたのだ。
「もし転倒していたら、前後の子どもはどうなっていた?」
「もし車が出てきていたら?」
「もし歩行者に正面からぶつかっていたら?」
そんな危険性を考えることはなかったのだろうか。
「私の進む道にいるあなたが悪いのよ!」
「子育てで大変なの、時間もないの!」
「だから私の邪魔をしないで!」
そういう心境なのだろうか。
自転車のマナー違反は以前から問題視されており、警察も昨年11月に道路交通法を改正し、罰則を強化するなどの対策を講じている。それでも、現場の実態はなかなか改善されていない。来年4月からは「青切符」制度が導入されるけれど、果たして効果があるのだろうか…。
しかし不思議なことに、走り去っていくその母親の背中を見ながら、私は怒りを覚えなかった。
いろいろなことが頭の中をめぐるうちに、怒りよりもむしろ笑いがこみ上げてきて、なんとも情けなく、そして悲しい気持ちになった。何とも言えない複雑な思いだった。
ところで、家に帰って妻にこの出来事を話したところ、
「今はこっちが気をつけなあかんねん。最近あんた、話しかけてもボーっとしてるけど、どうせ今日も周り見んとボーっと歩いてたんやろ!」
と言われてしまった。
それは確かに一理あるけれど…。
そんなに「ボーっと」「ボーっと」って、繰り返さなくてもいいのに。
いやいや、これは私の体を心配してくれてのことだと、ありがたく受け取っておこう…。
2025.5.1 By H.Taniguchi