
私はかつて、CSR(企業の社会的責任)の責任者として、様々なお客様の声と向き合う日々を過ごしていました。そのなかで、今でも忘れられない学びがいくつかあります。
今回は、その経験から特に印象深かった2つの出来事を紹介したいと思います。
クレームに蓋をする
1つ目は、誰もが敬遠するようなクレームで有名なお客様のところへ足を運んだときのこと。「責任者を呼べ」と声を荒げられ、訪問した私に、お客様はこんな問いかけをしました。
「あなたは、私がただクレームを言って、それを黙らせるためにあなたが来ていると思っていないか? そして、クレーム処理をする人の役割は極端に言うとお客様の苦情を黙らせる。クレームに蓋をする。それができたら終わりと思っていないか…」
私は思わず返答しました。「もちろんそんなつもりはありません」と…。
しかし同時に、私たちの今までの対応が、お客様をそんな風に思わせるような対応だったんだと気づきました。
そして、“クレーム処理”という言葉の裏に、顧客の不満を封じ込めて終わらせる発想が潜んでいるのではないかと思いました。
ときに私たちは「また面倒なクレームだ」「自分は犠牲者だ」と感じてしまいます。
でも、その姿勢こそが火に油を注ぎ、クレームを大きくする原因になっていたのです。
お客様の声に耳を傾ければ、そこにはこうしたメッセージが隠れています。
私が困っている事実をまず認めてほしい
迅速かつ適切に対応してほしい
無理を言っているのではなく、正当な要望なのだ
つまりクレームは、「商品やサービスの改善点を“親切に教えてくれる愛情あるフィードバック” 」とも言えるのです。
規格と実感のギャップ
2つ目に学んだことは、「提供側の規格」と「お客様の実感」とのギャップです。
かつて弊社の複写機に「音が大きい」というクレームがありました。
セールスは製造部門に改善を依頼しましたが、返事は「規格内なので対応できない」というもの。
しかし、お客様にとっては「規格内」かどうかは関係ありません。
「実際に困っている」という事実こそが重要なのです。
解決の糸口をつかむために、他のお客様にアンケートを取ることにした。
そこで、同じ機械を複数台使っているお客様に協力いただいて、アンケートを実施した。結果、複写機の近くで作業する人の約25%が「音が気になる」と回答。
このデータを示したことで製造部門も動き、次期モデルで改善されました。
結果的にそのお客様は新製品をすぐに導入し、関係も以前より良好になりました。
クレームは「親心」で「神の声」
「グッドマンの法則」によると不満を持っても何も言わないお客様(サイレントカスタマー)は96%、その内91%のお客様が去っていくといわれています。つまり、何も言わずに去っていくお客様が87%いるということです。
だからこそ、たった4%の声をあげて頂けるお客様にまずは“ありがとう”と感謝の言葉を述べ、一つ一つ大切に向き合い、その貴重な情報を再発防止、未然防止までつなげなければもったいないと思います。
そうすれば、勇気を出して声をあげたお客様も報われ、87%の離反顧客も同時に防げることにつながります。
クレーム対応で大切なのは、苦情を封じ込めることではありません。
お客様の声を「事実」として受け止め、改善につなげることです。
「クレーム処理」という言葉には、どこか相手を悪者扱いする響きがあります。
だからこそ お客様の声(VOC=Voice of Customer) として、言いやすい環境を整えて、積極的に前向きに捉えるべきなのです。

クレームは「私たちの鏡」、苦情やわがままではなく、言いにくいことを素直に声をあげて頂いた「親心」であり、「神の声」でもあります。
だから、私たちにとっては“改善のヒントであり、新しい価値を生む宝物”になるのです。
不満を抱いたお客様の声に、迅速かつ誠実に応えることで、そのお客様はやがて生涯のファン顧客に変わっていきます。
つまり、「クレーム」は「客様の声」に変え、「苦情」ではなく「プレゼント」と再定義し、全社挙げて前向きに取り組むことで、企業とお客様の関係はきっと大きく変わることになると思う。
By M.Tamura





