
新幹線を利用すると、ときどき小さな人間ドラマに出会うことがある。
その日、少し離れた席に座った私と同年代くらいのご年配のご夫婦。今日の主役はこのお二人だ。
ご主人が奥様に、何やら優しく声を掛けている。どうやら耳が少し遠いようで、その声はやや大きめ。
すると奥様は、周囲への気遣いからだろう、一言ピシャリ。
「しっ! 静かに、音量落として!」
ささやくように言ったはずなのに……。
この「しっ」という音は不思議なもので、息を一度止めて鋭く放つ破裂音だから、声の大きさ以上に“注意喚起力”が高いのだ。
ご主人の声はそれほど大きくはなかったが、奥様の「しっ」は車内の空気を一瞬でピンと張り詰めさせる力があった。
しかも、それが一度ではなく、ずっとこの調子。
思わず心の中で一句:
「静かに そういうあなたが 一番うるさいよ」(字余り)
「音よりも 気にしてください 周囲の目」(やはり字余り)
それでもご主人は、何も言い返さずニコニコ。
このご夫婦の日常を勝手に想像しながら、「おっちゃん、がんばれや」と、全く知らない人なのになぜか応援している私がいた。

そんな句を楽しみながら、ふと老いていく両親の姿が心に浮かんだ。(右の写真は両親に届けている愛情弁当の一例)
母は、耳の遠くなった父に対して、つい声を荒げることが多くなってきた。
父は何がなんだかわからないうちに言い返す。
娘の目には、幸せで穏やかな老後にはあまり見えず、それが少し悲しい。
きっと母が父に期待しているのは、「うんうん、そうかそうか」という相槌だけなんだろうな。
妻として、その気持ちはよくわかる。

そして、自分の家庭を振り返る。
私の夫も周囲お構いなしに声が大きい。
さすがに「しっ!」は言わないつもりだけれど、妻として恥ずかしいと感じることもあり、他人のふりをして少し後ろを歩くこともある。
大きな声で話すのも、笑っていいのか泣いていいのか迷うのも、それが歳を重ねてきたということなのかもしれない。
『相手は変えられない』。
だからこそ、ちょっと空間的に距離を置いてみるのも、『イラッ!』を減らすコツのひとつだと思う。
2025.8.4 by Ryoko.I

