
よく「言葉のキャッチボール」といいますよね。
では、実際にキャッチボールをするとき、まずどんなことに気をつけるでしょうか?
投げるボールの大きさは適当か? 距離は? 速さは? ストレートか、カーブか? タイミングは? 「投げるよ」と声をかけるかどうか……。
いろいろなことに気をつかいますよね。
では、日常のコミュニケーションでは、どんなことに気をつかっているでしょうか?
ふつう、気持ちのよいキャッチボールは、山なりのやさしいボールを投げ合います。
でも、ふと気を抜いて、はずれたボールを投げたり、受けそこねたりすることもあります。
そんなつもりはなくても、知らず知らずのうちにしてしまっていることがあるかもしれません。
たとえば、相手がすでにたくさんのボールを抱えていたり、気づかない背中に向かって投げてしまったり……。
そんなとき、相手はどんな気持ちになるでしょうか。
決してわざとではなく、何気なくしていることかもしれません。
けれど、相手はちゃんと感じ取っています。
特に、それが部下とのコミュニケーションであれば、なおさらです。
相手が受け取ってくれているからと、どんどん速いボールを投げてしまう。
「はい!」「はい!」と声をかけて、キャッチボールのペースを早めることもできてしまいます。
つまり、意識すれば、ある程度はキャッチボールをコントロールできるということ。
だとすれば――
よりよいコミュニケーションをつくるのは、「自分の意識」次第で、ある程度は可能だということなのです。
ただし、相手が受けられるからといって、どんどん速いボールを投げてしまうと、相手は「受けること」に集中しすぎてしまいます。
ボールの中身(=言葉の内容)に意識がいかなくなったり、余裕をなくして視野が狭くなり、考えるチャンスすら奪ってしまうこともあります。
だからこそ、コミュニケーションでは「相手の状態に気を配る」「相手のペースに合わせる」ことが大切です。
これを「ペーシング」といいます。
では、実際のコミュニケーションの中で、気持ちよいやりとりをするために、どんなふうに相手に合わせられるでしょうか?
話題、声のトーン、テンポ、声の大きさ、表情、視線、姿勢、態度、服装、言葉づかい……。
私たちコーチ仲間の間では、「飲み物を合わせる」というのもペーシングのひとつとして、ちょっとしたブームになっています。
なぜ、「合わせる」ことが大切なのでしょうか。
たとえば、同じ学校出身だとか、故郷が同じとわかったとたんに、親近感がわくことってありますよね。
人は「同じ」だと感じるだけで、安心できる面があるのだと思います。
また、ペースを合わせるために「うなづき」や「あいづち」も、とても効果的ですよね。
この「ペーシング」、案外、効果的なんです。
営業などで、「なんだかペースが合わないな」と感じたときは、少し仕切り直しをして、自分から意識的に姿勢や態度などを相手に合わせてみる。
まずは形からでOK。でも、その「合わせよう」とする気持ちが、自分と相手との関係を変える――私はそう信じています。
また、上司の立場にある人が気づかずに、相手が受けきれないほどの数のボールを一度に投げてしまうこともあります。
投げるだけ投げて、相手が受け取ったかどうかを確認しないまま、「伝えた」と思いこんでしまう。
そして後になって、「言ったじゃないか!」と腹を立てる……。
でも、「伝えた」と「伝わった」は違います。
相手が受け取りやすいように、ひとつひとつのキャッチボールを丁寧に完了させる。
ボールが相手に届いて、自分に返ってきて、はじめてそれはコミュニケーションです。
一方的に相手に投げてばかりのボール――それはもう、キャッチボールではありませんよね。
キャッチボールをイメージしながら、
「伝えた」ではなく、「伝わった」と言い切れるコミュニケーションを、ぜひ意識してみてください。
行って、返って――これが、ひとつの単位です。
2025.8.6 登世子




